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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3894号 判決

原告 綜合整備株式会社

右代表者代表取締役 加久保好夫

右訴訟代理人弁護士 西嶋勝彦

同 川名照美

同 平野大

被告 石川島建機株式会社

右代表者代表取締役 山田秀雄

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

同 竹谷勇四郎

同 福田恒二

同 金井正人

被告 牧島保男

主文

一  訴外太平洋起興株式会社と被告石川島建機株式会社間において、昭和五二年六月一〇日別紙物件目録記載の土地についてなされた根抵当権設定契約及び訴外太平洋起興株式会社と被告牧島保男間において、同年五月二八日右土地についてなされた売買契約は、原告と各被告間においていずれもこれを取消す。

二  被告石川島建機株式会社は原告に対し、右土地について訴外太平洋起興株式会社と同被告間の前橋地方法務局富岡支部昭和五二年六月一一日受付第四六九五号による根抵当権設定登記の抹消登記手続をせよ。

三  被告牧島保男は原告に対し、右土地について訴外太平洋起興株式会社と同被告間の同法務局同支部同日受付第四六九七号による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告石川島建機株式会社

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告牧島保男

1  原告の被告牧島保男に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  原告は、建設機械の修理、販売を行う会社であるが、訴外太平洋起興株式会社(以下「訴外会社」という)より建設機械の修理工事を受注し、昭和五二年五月末日現在、左記の約束手形債権(合計金三三四万〇〇九〇円)及び売掛金残金(昭和五二年三月ないし五月分の修理代金、合計金一五一万三六六〇円)総合計金四八五万三七五〇円を有していた。

振出日(年月日)

支払期日(年月日)

金額(円)

昭和51・12・29

昭和52・5・31

四〇〇、〇〇〇

昭和五一年九月、一〇月分の修理代金

右同

〃52・6・30

四〇〇、〇〇〇

右同

〃52・7・31

五二八、二九〇

昭和52・1・31

〃52・8・31

四〇三、〇〇〇

昭和五一年一一月、一二月分の修理代金

〃52・3・1

〃52・9・30

一一八、八〇〇

昭和五二年一月分修理代金内金

〃52・4・13

〃52・9・10

四九〇、〇〇〇

昭和五二年二月分の修理代金

右同

〃52・10・10

五〇〇、〇〇〇

右同

〃52・11・10

五〇〇、〇〇〇

(支払場所 ①~⑤群馬銀行小山支店、⑥~⑧栃木相互銀行小山支店)

二  ところで訴外会社は原告が受領した前記約束手形のうち①をその支払期日である昭和五二年五月三一日に「資金不足」により不渡りとし、次いで同年六月一〇日、第三者振り込みの約束手形も不渡りとし、昭和五二年六月一四日銀行取引停止処分を受けて倒産し、別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という)が右会社の唯一の財産となっていた。したがって右土地に抵当権を設定したり、格安に処分すれば、債権者を害することは明らかであったにもかかわらず、右会社は昭和五二年六月一〇日、本件土地につき被告石川島建機株式会社(以下「被告石川島」という)との間に、極度額を三、二七八万三、六〇八円とする根抵当権を設定し、同年五月二八日、本件土地を被告牧島保男(以下「被告牧島」という)に売却し、いずれも同年六月一一日主文第二、三項記載の登記手続を経由した。

三  右根抵当権の設定は、訴外会社の代表取締役水本十四二の妻水本一江を債務者としてその債務を担保するために設定されたものであり、本件土地の買主である被告牧島保男は訴外会社の取締役である牧島善市の二男であり、被告らはいずれも各契約締結に際し、訴外会社がその債権者を害することを知って契約した悪意の受益者である。

四  よって原告は民法四二四条に基づき被告らとの間において、本件土地につきなされた前記根抵当権設定契約及び土地売買契約を取消すとともに、前記各登記の抹消登記手続をなすべきことを求める。

(請求原因に対する被告らの答弁)

一  被告石川島

1 請求原因第一項は不知。

2 同第二項中、訴外会社が昭和五二年六月一四日銀行取引停止処分を受け事実上倒産したこと、訴外会社が同月一〇日被告石川島に対し、本件土地につき極度額を金三、二七八万三、六八〇円とする根抵当権を設定したことは認めるが、その余の事実は不知。

3 同第三項中、訴外会社の代表取締役水本十四二の妻水本一江を債務者として、その債務を担保するために設定されたことは認めるが、その余の事実は不知。

二  被告牧島

1 請求原因第一項は認める。

2 同二項中、訴外会社が被告石川島に対し、本件土地につき、極度額三二七八万三、六〇八円とする根抵当権を設定したこと(ただし、設定した日は昭和五二年六月一日である)及び被告牧島に対し本件土地を売却し、それぞれ請求の趣旨記載の登記を経由したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3 同第三項は否認する。

(被告石川島の主張)

一(1)  被告石川島は、訴外会社に対し、昭和五一年四月八日三七五B型バックホー一台を代金一、五一八万九六〇〇円、右代金については、昭和五一年五月から同年七月まで毎月一五日限り金一〇万円宛、同年八月一五日限り金三八万一六〇〇円、同年九月から昭和五四年一一月まで毎月一五日限り金三七万二、〇〇〇円宛支払う約束のもとに売渡した。

(2)  更に被告石川島は訴外会社に対し、昭和五一年一二月一日、三七五型バックホー一台を、代金一、〇七八万二九〇〇円、右代金については、昭和五二年一月から三月まで毎月末日限り金一五万円宛、同年四月末日限り金三五万〇、九〇〇円、同年五月から昭和五四年一一月まで毎月末日限り金三二万二、〇〇〇円宛支払う約束のもとに売渡した。

二  前記いずれの売買においても、訴外会社は、右代金の支払のため支払期日、額面を前記支払方法のとおりとする約束手形を被告石川島宛に振出し交付すること、被告石川島は代金完済まで右物件につき所有権を留保し、訴外会社には無償で貸与使用させること、訴外会社において債務不履行があったとき又は銀行取引停止処分を受ける等信用を著しく喪失したものと認められる事由が発生したときは、被告は何らの催告を要せず契約を解除することができ、そのときは訴外会社は右物件を被告に返還することが被告石川島と訴外会社間で約定された。

三  ところが訴外会社は、昭和五二年五月三一日支払期日の約束手形一通金三二万二、〇〇〇円及び同年六月一五日支払期日の約束手形一通金三七万二、〇〇〇円をそれぞれ不渡りとしたので、被告石川島は訴外会社に対し、前記売買契約をいずれも解除したところ、訴外会社の代表取締役水本十四二は、現在右機械を引揚げられると同会社の再建が困難になるので、同社が借受使用できるよう改めて同人の妻水本一江に対し右機械二台を売ってほしい旨強く懇願しかつその保証として同社所有の本件土地の担保提供をも申し出た。そこで被告は昭和五二年六月六日前記各機械を、残債権額をそれぞれの代金額として(前記一(1)の機械は金一、一一六万円、一(2)の機械は金九九八万二、〇〇〇円)、改めて水本一江に対し割賦にて売却し、右代金合計額及び予想される修理費相当額を極度額として、本件土地上に根抵当権の設定を受けたものである。

四  右根抵当権設定は訴外会社再建に役立てるため行なわれひいては総債権者の利益にも適うもので、かかる場合抵当権の設定行為は詐害行為として取消しうべき対象にならない。仮に対象になるとしても、本件の右設定行為は右に述べたような事情で訴外会社の要請により同社を再建せんがために契約したものであり、被告としてはこれが訴外会社の唯一の財産であることも知らず、債権者を害する意思は全くなかったものである。

(被告の主張に対する原告の認否)

一 被告の主張第一ないし三項はいずれも不知。

二 同第四項は争う。

第三証拠《省略》

理由

第一  本件土地の売却が詐害行為であるか否かにつき検討する。

一  請求原因第一項の事実及び訴外会社は原告が受領した請求原因第一項の約束手形のうち①をその支払期日である昭和五二年五月三一日に「資金不足」により不渡りとし、次いで同年六月一〇日、第三者振り込みの約束手形も不渡りとし、同月一四日取引停止処分を受けて倒産したことは、原告と被告牧島間において争いがない。

二  《証拠省略》によれば、訴外会社は本件土地を昭和五二年五月二八日被告牧島に売却したこと本件土地の買主である被告牧島保男は訴外会社の取締役である訴外牧島善市の二男であることが認められ、右事実及び前記争いのない事実によると、訴外会社が被告牧島に本件土地を売却した当時、訴外会社は三日後には手形不渡りを出し、半月後には銀行取引停止処分を受けることになる程その経理状態は悪化していたにもかかわらず、訴外会社は同社の取締役である牧島善市の二男である被告牧島保男に譲渡したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

そうすると、訴外会社は原告の債権を害することを知りながら本件土地を被告牧島に譲渡したことは明らかであり、訴外会社と被告牧島との関係は前述のとおりであるから、被告牧島が本件土地譲受けにあたり訴外会社の経理状態が極度に悪化しており譲受けにより債権者を害することを認識していた悪意の受益者であると推認するのが相当である。

被告牧島が本件土地を買い取った価額については立証がないが、前記認定の身分関係からして、被告牧島が本件土地を相当な価額で買い受けたものとは考え難く、仮に相当な価額で買い受けたとしても、右売買代金を優先権を有する債権者への弁済にあてたことを挙証しうるような特段の事情のない限り、不動産を消費しやすい金銭に変えることは、共同担保としての効力を減ずることになり、原則として詐害行為となると解するのが相当である。

本件全証拠によるも被告牧島において売買代金の使途につき右にのべたような特段の事情は認められない。

よって本件土地の売却は詐害行為として取消の対象となることを免れない。

第二  次に本件土地に根抵当権を設定した行為が詐害行為になるか否かにつき検討する。

一  訴外会社が昭和五二年六月一四日銀行取引停止処分を受けて事実上倒産したこと、訴外会社が同月一〇日被告石川島に対し本件土地につき訴外会社の代表取締役水本十四二の妻水本一江を債務者として、その債務を担保するため、極度額三、二七八万三、六八〇円とする根抵当権を設定したことは、原告と被告石川島間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、請求原因第一項の事実が認められる。

三  《証拠省略》によれば、被告石川島が訴外会社に対し割賦販売契約に基づき昭和五一年四月八日及び同五一年一二月一〇日に建設機械各一台計二台を売り渡し、支払のため右会社から約束手形の交付を受けていたが、昭和五二年五月三一日に右手形が不渡りとなったので、同年六月一日被告石川島は同社に対し当初の契約条件により契約を解除し右機械を引揚げる旨申し入れ、同月二日右機械のうち一台を引揚げたところ、同会社の代表取締役水本十四二から「手形の不渡りを出したが、掘削機がないと会社の営業がなりたたないので是非前記二台の機械を使わせて欲しい」との申入れがあり、更に同月三日右水本より「会社を再建するため水本の妻水本一江名義で手形を振出し、一江を買主として本件土地を担保に提供するので、前記二台の機械を売って欲しい」と懇願されたため、訴外会社から前記二台の機械の代金として合計約四〇〇万円の支払を受けたのみで、約二、一〇〇万円の未払代金があったにもかかわらず、被告石川島は同月六日、右会社に対し、前記二台の機械を当時の残債権額を売買代金として再度売却することとし、右売買代金及びサービス、工事代金、修理代金を極度額として、本件土地に債務者を水本一江として根抵当権を設定したこと、昭和五二年六月二日から三日にかけ訴外会社が所持していた建設機械は被告石川島を除き売主がすべて引揚げてしまっていたこと、被告石川島は訴外会社から受領した約束手形の第一回の手形不渡りが出て、同社と話し合った昭和五二年六月一日においても、同社の負債がどの程度あったのか調査せず、同社の代表取締役水本十四二から再建の話が出た同年六月三日頃にもどのようにして再建するのか、訴外会社の方から全く説明もなされず、被告石川島も右会社に確認しなかったこと、

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右認定事実及び前記当事者間に争いのない事実によれば訴外会社は本件土地に根抵当権を設定した当時、訴外会社の再建が事実上困難であり、本件土地に特定の債権者のために根抵当権を設定することは、他の債権者を害することになることを認識しながら根抵当権を設定したものであり被告石川島も右と同一の認識のもとに、自己の債権の回収を確実なものとするため訴外会社から、本件土地に根抵当権の設定を受けたものと解するのが相当である。

四  以上によれば債務者たる訴外会社は一部の債権者たる被告石川島に対し担保を供与したものであり、他の債権者の共同担保がそれだけ減少することとなり、前記認定の詐害の意思と相まって根抵当権設定行為は詐害行為となり、取消の対象となることを免れない。

第三  結論

よって詐害行為取消権に基づき、原告と被告ら間において訴外太平洋起興株式会社と被告石川島建機株式会社間の前記根抵当権設定契約、右訴外会社と被告牧島保男間の前記売買契約の取消、被告石川島に対して前橋地方法務局富岡支部昭和五二年六月一一日受付第四六九五号をもってなされた根抵当権設定登記及び被告牧島に対して同法務局同支部同日受付第四六九七号をもってなされた所有権移転登記の各抹消登記手続を求める原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 日野忠和)

〈以下省略〉

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